酒の上の乱暴を謝す



 
 
 
 
 

 
 前略。昨夜は同人大勢にて参上致し御手厚き御饗応に預り、千万奉拝謝候。さてお恥かしき次第に候へども久々の美禄(びろく)に枯腸(こちょう)を温(あたた)め、思はず度を過ごし候所、逸興(いっきょう)の余り遂に平生のたしなみを忘れて粗暴の事致し剰(あまつさ)へ奥様に対し何か無礼の言を放ち候との事何とも申し訳なく、恐懼に堪へざる仕誼(しぎ)に奉存候。今更少しも存ぜざりしと申すも厚顔の至りに候へども、実は今朝覚醒の後右のあらましを同行の者より言ひ聞かされ、驚愕悔恨穴へも入りたき心地致候。全く狂水(きちがいみず)に呑まれし発狂的夢中の挙動に候間何卒御寛恕(くわんじょ)の程奉希(こひねがひ)候。早速参趨(さんすう)御詫(わび)と存候へども、如何にしても御閾(しきゐ)を跨(また)ぎかね候まま、取あへず書面を以て謝罪まで如此(かくのごとく)に御座候。奥様へは尊臺(そんだい)よりよろしく御取なし被下候はば尚叉忝(かたじけな)き仕合せに奉存候。 頓首謹言。
 
 

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